歳を重ねた愛犬との生活のなかで、犬が若い時にはしなかったトイレの失敗をしたり、声をかけても知らん顔をしたりする場面に遭遇して、認知症なのではないかと心配になることはないでしょうか?認知症ではどのような症状が出るのか、予防方法などを知りたい飼い主様も多いでしょう。

今回の記事では、犬の認知症について解説し、症状、好発する犬種や年齢、予防方法などをお伝えします。また、認知症になってしまった犬に飼い主様がしてあげられることもご紹介します。

犬の認知症とは?どのような症状が出る?

はじめに犬の認知症とはどのような病気なのか、どのような症状が出るのかについてお伝えします。

犬の認知症は進行性の病気の一つ

認知症は、高齢化に伴って生じる脳の不可逆的(元に戻らない)変化が原因です。そのため、一度発症すると治ることのない進行性の病気です。認知機能、学習能力、記憶力などが低下し、説明のつかない異常な行動をとり始めることがあります。愛犬が認知症になった場合、家族が認知症を理解してケアすることが重要です。

犬の認知症のおもな症状

認知症の症状は非常にさまざまです。典型的な症状のひとつに「徘徊」が挙げられます。自分の居場所がわからなくなるため、あてもなく歩き続ける症状です。同じ場所をくるくる回るように歩いたり、明らかに通れない狭い場所を通ろうとして動けなくなったりすることもあります。

トイレの失敗が増えたり、食べ物の好みが急に変わったり、ご飯を食べたばかりなのにすぐにご飯を要求することもあります。飼い主様を認識できなくなったり、呼びかけに反応しなくなったり、空中の一点を見つめ続けたりすることもあります。昼夜逆転生活になり夜鳴きが増えることもあります。

その他、攻撃的になったり、過剰におびえるようになるなど、性格に変化があらわれることもあります。

認知症になりやすい犬種や年齢

認知症になりやすい犬種や年齢

一般的に、柴犬、秋田犬、甲斐犬などの日本犬は認知症になりやすいと言われています。一方で、ゴールデンレトリバー、チワワ、ミニチュアダックスフンドなどの洋犬が認知症になるケースは極めて少ないとされています。

認知症は高齢犬がなりやすい病気です。犬全体として考えると、認知症の犬は12~13歳くらいから急激に増え始め、15歳~17歳まで増加傾向となります。高齢化するスピードは大型犬の方が小型犬よりも早い傾向があります。そのため、大型犬では8歳くらいから認知症への注意が必要です。小型犬も10歳を超えたら予防や対策を考えましょう。

犬の認知症を予防するにはどうすれば良い?

犬の認知症を予防するにはどうすれば良い?

飼い主様としては、愛犬にはできるだけ認知症にかかって欲しくないですよね。ここでは飼い主様にできる認知症予防の中でも、特に鍵となる「食べ物」「遊び」「運動」についてお伝えします。

食べ物で予防する

認知症予防には日々の食べ物が大切です。犬が高齢化してきたら、年齢に応じたシニア用フードを与えるようにしましょう。認知症予防のために、特に積極的に与えたい栄養素は、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などのオメガ3脂肪酸です。

その他、人ではビタミンCやE、βーカロチンの摂取がアルツハイマー型認知症の発症抑制になるという見解もあり(否定する見解もある)、犬にも効果がある可能性も考えられます。 同様に、コエンザイムQ10という補酵素も人のアルツハイマー型認知症の発症抑制物質として着目されることがあり、犬でも積極的な摂取が推奨されることがあります。

これらの栄養素は、普段のフードのみでは取り入れられないことも多いため、サプリメントで与えるのも良いでしょう。すでに動物病院では、日本犬にDHAなどを含んだサプリメントを補給させることを推奨することが多くなっています。

頭を使った遊びで予防する

認知症の予防のためには、脳への刺激も大切だと言われています。犬の場合、老化と共に周囲への興味や好奇心が減少し、生活が単調になりやすい傾向があります。遊びで脳を刺激して認知症の予防をしましょう。

具体的には、日常的に行っている「マテ」「オスワリ」などのコマンドを1日5分程度、3回くらい行うと良いでしょう。すでに知っているコマンドを繰り返すだけでなく、「チョウダイ」などの新しいコマンドに挑戦するのも効果的です。

犬が大好きなおやつを、何かの入れ物に入れて探させるのも、犬が元々もっている探索心を多いに刺激するでしょう。方法がわからない場合は市販されている犬用の「知育玩具」を使用するのがおすすめです。

適度な運動で予防する

脳への刺激として、また、老化そのものの進行を遅らせる目的としても運動は大切です。高齢化すると犬が散歩に行きたがらなくなることもありますが、足腰などに痛みがなければできるだけ毎日のお散歩を続けましょう。

毎日同じコースを歩くのではなく、お散歩コースを変えてみたり、コースの途中でボール遊びなどを取り入れたりするのも良いでしょう。ドッグランなどの公共の施設で、他の犬や人と触れ合うのも良い刺激になることがあります。足腰が弱くなり、思うように外に出られなくなったら、室内で運動できる工夫をしてあげると良いでしょう。

愛犬が認知症になってしまった場合はどうするべきか

愛犬が認知症になってしまった場合はどうするべきか

認知症を必ず予防できるという明確な方法はありません。飼い主様がいくら気を配っても、愛犬が認知症になってしまうこともあります。ここでは認知症になった犬に飼い主様がしてあげられることをお伝えします。

迷子にならないように気を付ける

認知症の犬は、いつも通っている道でも、それがどこなのかがわからなくなるときがあります。お散歩の際は必ずリードを付け、リードが外れないように対策しましょう。万一なんらかのトラブルで犬とはぐれてしまった場合のために、マイクロチップ未挿入の場合はマイクロチップの挿入も検討しましょう。首輪に迷子札を付けるだけでも安心ですね。

食事療法を取り入れる

発症してしまった認知症の進行を食事で食い止めるのは難しいですが、症状の進行を緩和する効果は期待できることもあります。上でもお伝えしましたが、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などのオメガ3脂肪酸やビタミンA、C、Eなどの抗酸化物質、コエンザイムQ10などの栄養素が効果的である可能性があります。

動物病院で相談し、日常の食事やサプリメントで、愛犬に必要な栄養素を取り入れてみるのも良いでしょう。

愛犬の生活環境を整える

認知症の犬は、徘徊中に壁や家具に頭をぶつけたり、狭いところに入り込んだまま出られなくなってしまったりすることがあります。愛犬が安全に徘徊できるように、円状のサークルなどを設置して、そのなかで過ごしてもらうようにすると良いでしょう。ビニールプールは簡単に設置できて便利です。

トイレの失敗が増えてきたら、おむつの使用を検討するのも良いですね。おむつはまず短時間の着用からスタートして、徐々に慣れてもらいましょう。

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病院で薬を処方してもらう

動物病院で、認知症の症状に対処する薬を処方してもらうのも良いでしょう。抗不安薬や睡眠導入剤などを処方することで、昼夜逆転や夜鳴きなどの悩みが緩和されることもあります。

愛犬との穏やかな老後のために認知症を理解しましょう

犬はいつまでも子供のように愛らしく、なかなか高齢化に気づかないことがあります。しかし、まだまだ元気な7~8歳くらいでも体内では着実に老化が進んでいます。今回の記事も参考に、積極的に認知症の予防に取り組みましょう。また、認知症は完全に予防することはできません。予め症状などを理解しておけば、いざという時に慌てずに対応できます。

認知症をはじめ、高齢犬には、若いころには必要のなかったケアが大切になります。飼い主様のより細やかな配慮が、高齢犬の生活の質の維持につながると言えるでしょう。